「量から質へ」転換さらに進める
――昨年の振り返りを。
舘 中期経営計画「VALUE UP(バリューアップ)2020」で掲げた「ターゲットの量から質へ」という取り組みを引き続き強化した。一般団体はMICEや大企業、グローバルに事業を行う企業の受注を増やすこと。教育旅行は私学やスポーツ大会、教育関連大会などの「第2教旅」の扱いを増やすことだ。
昨年は法人営業全体で計画した販売額には届かなかったが、そのような中身の変化によって、利益の方は目標の数字を達成する見込みだ。
――利益が増えた理由をさらに詳しく言うと。
舘 取り組むべき顧客層にターゲットを絞ったということだ。単発で、利益が見込めない顧客層の取り扱いを減らしたことで、総販売額は減少したが、利益は前年以上を確保できる見込みだ。
法人営業と個人旅行営業の二つの柱の中で、以前は個人旅行営業の方が利益の中核をなしていた。2013年からの中期経営計画「ACTIVE(アクティブ)2016」以降は教育旅行やMICEを中核分野と位置付けて取り組みを強化し、法人営業も大きな柱になった。
――今年の市場見通しは。
舘 景気の上昇が見られたので十分やっていけるだろうと思っていたが、新型コロナウイルスの発生で見込みが狂ってしまった。日本人の国内団体のキャンセルも一部発生している。いつ収束するか、先が読めない。収束時期によって当社の取り扱い数字も変わってくるだろう。少なくとも上半期は厳しいとみている。
下半期は東京オリンピック・パラリンピックがある。当社は公式スポンサーではないが、海外のエージェントから選手団や観客の取り扱い、各国NOC(五輪委員会)の仕事を請け負っている。主要国はナショナルハウスという自国のPR施設も作る。これらの運営業務を、昨年のラグビーワールドカップ以上に行えるようにしたい。
――法人営業の強化策について。
舘 新中計では法人営業全体の収益を現状から12%ほど増やす必要がある。ただやみくもに増やすのではない。今まで取り組んできた「量から質への転換」に引き続き取り組む。一般団体でいえば大企業、グローバル企業、教育旅行でいえば私学への対応。これらのターゲットは大都市に集中している。そのため、大都市の支店などに要員を集中的に投入する。新卒社員を多く採用し、東京都心部には従来プラス200人規模の人員を配置する。
一方、地方都市の支店では、その土地から外に出ていただくというアウトモデルに終始することなく、旅連の活動と同じように、その土地に来ていただくというインモデルへの取り組みを強化する。
新中計のスタートと同時に行った組織改正では、法人営業統括本部内で教育旅行部、MICE営業部など旅行形態ごとに切り分けていた部署を、事業戦略推進部、営業開発部、全国営業推進部など、機能別に再編した。
事業戦略推進部では、教育旅行を含めた法人営業全体の戦略を立案するほか、わが社が力を入れているSDGsの取り組みを進める。企業や学校それぞれのSDGsの考え方に沿った団体旅行の企画を提案する。
営業開発部はコンテンツやシステムの開発、企画書の作成などで営業現場を支援する部署。
全国営業推進部は、先ほど述べた地方都市の支店のインモデル推進の支援。各地が開催する大型イベントに関わる仕事を受注するためのサポートなどを本社として行う。
さらに特定の大企業やグローバル企業をターゲットにしたコーポレートセールス部を新たに設けた。コーポレートセールス部はグローバルソリューション営業本部、東日本営業本部、西日本営業本部にも設置し、本社と連携してターゲット企業の総合的な課題解決やBTM(ビジネス・トラベル・マネジメント)も含めた総需要の獲得を目指す。
グローバル企業と取引するために、在外のグループ会社による海外での営業も行う。今までは日本人の海外旅行のさまざまな手配機能を担っていたが、営業の機能も持たせる。
中計の成功は支店長、箇所長の意識にかかっている。目の前の案件にとらわれずに、中計における自らの箇所の役割を意識して、自ら先頭に立って行動することが必要だ。前半のフェーズ1ではハード、ソフトともかなりの投資をし、単年度では痛みを伴うこともあるが、着実に進めなければ次のフェーズ2はない。
――日旅連に対して。
舘 各地域でインモデルを進める上で、会員の皆さまの協力が必要だ。各地の仕入・誘客推進センターとともに、法人営業部隊との連携も深めていただきたい。都市部のコーポレートセールスについても、会員の皆さまに人脈をご紹介いただきたいと考えている。
ご協力をお願いするばかりではなく、送客でしっかりと実績を上げるつもりだ。
(聞き手=森田淳)
日本旅行 常務取締役 法人営業統括本部長 舘 真氏